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金沢地方裁判所 昭和52年(ワ)195号 判決 1979年5月24日

原告

竹山健一郎

被告

土田博

主文

一  被告は原告に対し、金八八〇、八六一円及びこれに対する昭和五〇年七月二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告その余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮りに執行することができる。

事実

第一申立

原告

(請求の趣旨)

一  被告は原告に対し金九、三八八、八七〇円及びこれに対する昭和五〇年七月二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決と仮執行宣言。

被告

(請求の趣旨に対する答弁)

請求棄却。訴訟費用原告負担。

第二主張

原告

(請求原因)

一  事故の発生

被告の運転する自動二輪車と歩行中の原告との間で衝突事故が発生した。

(一) 事故発生年月日 昭和五〇年七月一日午後九時二〇分頃

(二) 事故発生場所 新潟市所島九一八道路上

(三) 加害者及び加害車両 被告運転の同人保有の自動二輪車(新ま五九―五一)

(四) 被害者 原告

(五) 事故の態様 原告が道路を歩行中、後方より走行してきた被告運転の自動二輪車にはね飛ばされ、傷害を負つた。

二  責任原因

被告は自動二輪車の運転者として、前方注視義務を怠つた過失があり、民法七〇九条の損害賠償責任がある。

三  傷害の部位程度

原告は前記事故により、右腓骨骨折、右足関節捻挫、右肘部打撲の傷害を受け、昭和五〇年七月一日から同年七月八日まで新潟市内の長谷川病院に、同年七月八日から同年九月一六日まで金沢市内の村彦病院に入院し、同年九月一七日から同年一二月二六日まで同病院に通院(実治療日数二一日)し治療を受けた。

四  損害

(一) 加療等に要した費用

1 治療費 六六八、一五〇円

2 入院雑費 三九、〇〇〇円

(二) 慰藉料 七〇〇、〇〇〇円

(三) 休業損害

原告は竹山商店という屋号でカーテンレースの販売業を営んでいるが、入院中業務をすることができなかつた。

(1) その結果売上げが激減し、資金繰がつかず、やむなく商品を取引先に一括して次のとおり値引して販売せざるをえなくなつた。

(イ) サンパツク株式会社に対する販売分

KTジヤガードカーテンレース五四五四・五メートルをメートル当り(以下同じ。)四〇円値引したための損害金二一八、一八〇円

同商品四八、〇〇二・五メートルを三〇円値引したための損害金一、四四〇、〇七五円

同商品一三、四八四・五メートルを一五円値引したための損害金二〇二、二六七円

右の合計 一、八六〇、五二二円

(ロ) シンコー株式会社に対する販売分

KTジヤガードカーテンレース五〇、〇九七・五メートルを五〇円値引したための損害金二、五〇四、八七五円

同商品四、九二二メートルを三〇円値引したための損害金一四七、六六〇円

同商品五三、九七八・五メートルを一〇円値引したための損害金五三九、七八五円

KTジヤガードカーテンレース染一、九四四・五メートルを五〇円値引したための損害金九七、二二五円

同商品四九七・五メートルを四〇円値引したための損害金一九、九〇〇円

同商品四、〇八八メートルを二〇円値引したための損害金八一、七六〇円

同商品七五五メートルを一〇円値引したための損害金七、五五〇円

右の合計 三、三九八、七五五円

以上の値引販売の損害合計 五、四八九、四二二円

(2) 原告は前記のとおり入院したため、得意先廻りができず、やむなくカーテン見本帳を作成して得意先に送付せざるを得なくなつた。

そのための損害は次のとおりである。

表紙 八八〇冊 五七四、五〇〇円

台紙 四三、〇〇〇枚 八六〇、〇〇〇円

見本生地代

KTジヤガード二〇〇反 一〇〇、〇〇〇円

KTマーキ五〇反 二五〇、〇〇〇円

外注作成費 七〇四冊 四四九、一一三円

作成工賃 二四〇、四四〇円

発送運賃 六六、五四〇円

右の合計 四、五四〇、五九三円

五  損害の填補

以上の損害金合計は一一、二〇七、〇二〇円であるが、すでに六六八、一五〇円の治療費の支払を受けたのでそれを控除し、カーテン見本帳作成のための損害については四、五四〇、五九二円中二〇〇万円を控除することにし、損害額は八、五三八、八七〇円となる。

六  弁護士費用

原告は本訴提起のため弁護士に依頼したが、その費用は本件事故により支出を余儀なくされたものであるから、被告に負担させるべき金員として八五〇、〇〇〇円が相当である。

七  よつて、以上の合計九、三八八、八七〇円及びこれに対する事故の日の翌日である昭和五〇年七月二日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告主張の認否)

争う。

被告

(請求原因の認否)

一(一)ないし(四)は認め、(五)は争う。二は認めるが、その過失の程度は軽微である。三は認める。四は、(一)1は認め、その余は争う。五は、治療費の支払は認め、その余は争う。六、七は争う。

(被告の主張)

一  本件事故は、被告が前方を注視しながら安全に進行していたところ、原告が左側の歩道から突然飛び出したため、被告は直に急制動等をしたが避けられず、原告が被告車に接触してひつかかつた状況である。

従つて、原告には、自動車の通行の有無等交通の安全を確認したうえで道路を横断すべき義務を怠つた重大な過失があり、四割以上過失相殺されるべきである。

二  原告は、従来も値引販売をしており、それは、値引をしても大量に処分することの利益があつて行なわれていたことからすると、原告主張の値引販売は本件事故によりやむをえずしたものかどうか疑わしい。

又、右値引による損害、見本帳作成による損害は、通常生ずべき損害でなく、予見可能な損害でもない。このうち、見本帳は、原告の休業期間後も使用されており、その作成費用が損害となるわけではない。その作成費用自体も、原告の主張額より少ないのが実情であり、一方、本件事故によつて原告の出張費、交際費は昭和五〇年下半期において一、七七九、四二六円減少している。

原告の休業損害は、その個人企業所得が赤字で、そのうちから原告個人の寄与部分をとり出して評価することが困難であるから、結局全国の男子労働者の賃金を基準として算定すべきである。しかるに原告はこのような主張をしないから、休業損害は認められない。

第三立証〔略〕

理由

請求原因事実中一(一)ないし(四)、二(過失の程度を除く)、三、四(一)1、五の治療費支払の点は当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第一ないし第三号証、原告本人尋問の結果によると、被告は前示日時場所で自動二輪車を運転し、車道幅員約六・五メートル、歩道車道の区別あるアスフアルト道路上を時速約四〇キロメートルで進行中、対行車両の前照灯に一時げん惑されたのち、約一四・五メートル前方の道路左側に原告を発見し、急制動したがこれと自車ハンドル左側を接触転倒させたものであり、原告は、現場の歩道からタクシーに乗るべく車道を横断しようとして、一たん道路中央まで出たが、そこからもとの歩道へ引き返す途中、歩道まで約一・五メートルの車道上で、被告車と接触転倒したこと、被告は前方注視が不十分であり、原告の当時の動静も確認していない一方、原告も被告車と接触転倒するまで被告車に気付いておらず、横断歩道ではない場所で車道に出て、さらに引返すについて安全確認を欠いていることが認められ、これらの事情からみると、原告と被告の過失割合は三対七と判定すべきである。

前示争いのない入院期間、傷害程度からすると、入院雑費三九、〇〇〇円は事故と相当因果関係ある損害と認められる。又、本件事故の前示態様、争いのない治療期間、傷害の部位程度等からすると、原告の本件事故による精神的損害に対する慰藉料相当額は、七〇〇、〇〇〇円を下らないと判定することができる。

休業損害につき、企業主が身体を傷害されたため企業に従事することができなくなつたことによつて生ずる財産上の損害額は、特段の事情のないかぎり、企業収益中に占める企業主の労務その他企業に対する個人的寄与に基づく収益部分の割合によつて算定すべきである(最高裁判所第二小法廷昭和四三年八月二日判決参照)。

そして、企業主の企業が収益をあげていなかつたときは、右の方法により損害を算定することはできないが、この場合の企業主の労務の価額は、その一般的な収益能力すなわち例えば賃金統計による平均賃金相当額によつて算定することができると解する(右のように、企業主の労務の価額をその収益で評価する以上、その傷害の前後とも企業に損失があり、傷害後は損失が増加しているときにも、その増加分を損害額の算定基礎とすることはできない。もしこれを基礎とすることを許せば、従来収益をあげていた企業が、企業主の傷害によつて逆に損失を生ずるに至つた場合には、従来の収益分のほか、損失の分をも加えて損害額の算定基礎としなければ一貫せず、その結果従来の収益以上の額の賠償を命ずることになつて妥当でないと考えられる)。

又、裁判所は、訴訟にあらわれた資料又は公知の事実によつて、損害額を算定することができ、当事者の主張する算定方法に拘束されるものではない。

成立に争いのない乙第四号証の一ないし四、証人野村三郎、同橘俊一の各証言、原告本人尋問の結果によると、原告はカーテンレースの製造販売を業とする従業員六、七人のいわゆる個人経営者であり、本件事故により昭和五〇年七月一日から前示のとおり入院または通院実治療し、その間右業務に従事することはできなかつたこと、事故前の昭和五〇年一月から六月までの期間の原告の損益計算書の記載上の利益、損失と、事故後の同年七月以降一二月まで及び同五一年一月から六月までのそれとを比較すると別紙「損益計算書の比較表」のとおりであることが認められる。

そして、右によると、原告の企業は、その傷害前後を通じて損失金があり、収益がなかつたのであるから、企業収益を基礎としてその損害を算定できず、他にその算定資料とすべき事実も認められないから、前示賃金統計による算定方法をとることとする。

この点につき、原告は、その入院中に値引販売した商品の本来の価額との差額及び当時原告の営業活動の不能を補なうため使用した見本帳の作成経費を損失として主張するが、これらの販売や経費支出は、いずれも原告の営業活動の一部として行なわれ、値引販売による売上収入低下は、販売代価の早期入手による利益と相補う面があり、見本帳作成の経費損失は、その利用による売上拡大と関連するから、その得失は結局企業収益として集計して評価すべきであり、企業活動に関する限り個個の販売あるいは特定の投資についての損失や経費のみをとらえて、事故に基づく損害とすることはできない。

原告本人尋問の結果と成立に争いのない乙第三号証によると、原告は事故当時三二歳の男子であることが認められ、昭和五〇年版賃金センサス第一表企業規模計、産業計、男子労働者、学歴計、三〇歳から三四歳の年間所得二、四四三、九〇〇円、前示入院の日数七八日及び通院実日数二一日の合計が九九日であることから算定すると、休業損害は六六二、八六六円となる。

以上の損害合計は二、〇七〇、〇一六円であるが、前示過失相殺の割合を乗ずれば、一、四四九、〇一一円(円未満切捨)である。そして、前示治療費としての支払分六六八、一五〇円を控除した残額は七八〇、八六一円で、これが損害額であり、本件の事件の性質、争点等を考慮し、訴訟委任がなされることは通常予想しうるところであるから、右認容額等に照らし、訴訟委任手数料、報酬は一〇〇、〇〇〇円の限度で本件事故と相当因果関係のあるものと認められ、これを加えた八八〇、八六一円と、これに対する不法行為時以後である昭和五〇年七月二日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、原告の請求は理由があり、その余は理由がない。

よつて、右の限度で原告の請求を認容し、その余は棄却し、民事訴訟法九二条、一九六条により主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤光康)

(損益計算書の比較表)

<省略>

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